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掲載レポート紹介 (「ベトナムの社会・経済開発」16号) 

「都市部におけるストリートチルドレンと児童労働:ハノイの事例研究」

グエン・フォン・タオ(家族と女性研究センター)
チン・ズイ・ルァン (社会学院)  

このレポートは1998年の7月から8月にかけて、ハノイ市南東のタインスアン地区において社会学院の研究グループが行ったストリートチルドレンと児童労働(実際の対象は18歳以下の未成年者)の生活実態と彼らが直面する問題についての調査の報告である。

調査は201名の子供達からの聞き取り調査、および30人の子供達への集中調査を中心にまとめられている。

本文中にもあるとおり、労働・傷病兵・社会省の見積もりによれば1997年にストリートチルドレンの数は5万人に達し、市場経済の導入による都市と農村の収入差の拡大を主要な背景としてその数は増大している。

本調査はハノイのトゥオンディン工業団地と混雑した居住地を含む工業地区で行われた。従って、比較的政府の管理の目の届きやすい地域での調査であり、他の地域、とりわけ市場経済の中心地であるホーチミン市の子供達の状況とは多くの点で異なると推測されるが、全国的な実態把握の基礎となるべき貴重な資料と言えるだろう。

本レポートの紹介の前に関連する基礎的な事項をまとめる。:

  1. ベトナムにおける義務教育は小学校、中学校の9年間である。
  2. 労働法では、労働・傷病兵・社会省が定めた一定の職業・業務を除き15才以下の子供を就業させることを禁じている。また許可された職業・業務であっても父母あるいは保護者の同意と連絡がなければならないとしている。同労働法で定められた18歳以下の労働者の就業時間は1日7時間または週42時間である。
  3. 人口の約8割を占める農村地域では年少の頃から農業や家事の手伝いをすることは一般的で、家族にとって子供達はの貴重な働き手でもある。
  4. 「非就学児童のための教育フォーラム」(ユネスコなどによる開催:1999年1月)での報告によれば全国で就学年齢の90%が小学校入学の手続きを行うが、卒業するのはそのうち63%だけであり、非就学児童の数は120万人にものぼる。非就学児童の半数を山岳地域の少数民族が占め、残りの半数は障害を持つ子供、貧困家庭の子供達や難民として出国した家族の子供達である。
  5. 関連する法および政策 : ベトナムでは子供の保護に関する国家プログラムが現在進められている。ベトナムの行政組織として「青少年保護育成委員会」が政府(日本の内閣に相当:委員長は大臣)に設けられている。「子供の保護育成に関する法律」、「初等教育の普及に関する法律」、「労働法」が子供の地位に直接関係した法律である。
  6. 都市と農村の関係 :ベトナムでは大都市への人口の過度の集中を抑制するために農村からの移住は制限されている。したがって農村の未成年、未熟練労働者がハノイの工場や事務所に就職することはほとんどありえない。戸籍の転入もほぼ不可能である。現在大都市では市場経済化にともない失業率が上昇しており労働力を吸収することが出来ないのである。

内容について:

聞き取り調査の評価は、子供達を3つのグループにわけて行われている。

1.ストリートチルドレングループ
路上での仕事、例えば本、新聞、宝くじ、日用品を売り歩いたり、靴磨きや廃品回収、物乞いをしている子供達
2.児童労働グループ
レストランや大衆食堂や手工芸の作業場で働く子供達
3.メイドとして働くグループ
個人の家庭で子供の世話や料理や洗濯、掃除などの仕事をしている子供達である。

子供達全体の共通点は、故郷を離れて、ハノイで何らかの形で働いて収入を得ているということで、さらに本レポートのなかで彼らの多くが田舎の家族を助けるために出稼ぎをしている子供達であることが明らかになる。

調査によると、6才から15歳までの子供が全体の6割を占める。食堂などの住み込みの仕事では長時間労働の比率が高く最長16時間にも及んでいる。女子がほとんどを占めるメイドの仕事は低賃金である。だが住み込みの仕事は路上で働く子供達にとっては安全で安定したあこがれの仕事でもあるようだ。路上で寝る子供達は全体の1割で、6割が一つのベッドに4、5人が一緒に寝るような狭苦しい宿泊施設に寝泊まりしている。

明らかになるのは都市での子供達の状況だけではない。子供達が都市での生活に耐えているのは農村での生活の厳しさが背景にあるからであり、どんな仕事であれ家族のために、自分が生きて行くために子供達は肩を寄せ合って暮らしているようである。そして彼らは勉強を続けたり、職業訓練を受けてもっと安定した仕事に就いたり、両親の元へ戻りたいなどの夢を持っている。

上記3つのカテゴリーや、年齢、職種などによる子供達のおかれた状態の違いやなどについても、多くの表によってまとめられ、集中調査によって得られた何人かの少年、少女の聞き書きもあり、具体的でわかりやすい。

<目次>

まえがき  

I. ストリートチルドレンと児童労働の社会・人口統計学的特徴

  1. 性別と年齢構成  
  2. 教育レベル
  3. 出身地
  4. ハノイ、タインスアン地区での居住期間  

II. 仕事・収入・支出  

1.仕事

a)子供達がハノイへ来た理由
b)ハノイへ来た回数
c)ハノイへどのようにして来たか
d)どのような仕事をしているか  

III. 社会的な関係(家族との連絡や親密な関係にある人たち)

IV. 子供達の生活と心配ごと

1.生活と活動   

a)子供達が寝る場所
b)食べ物   
c)衣服(着替え)
d)心配なこと  

V. 社会犯罪に関連する事柄  

VI. ストレートチルドレン援助機関に対する子供達の理解度